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〔研究レポート〕 脚光を浴びる機能性野菜 JAPAN ASSOCIATION FOR HERBS, 95, 19-16, 2006. より再編。 ヤーコンについて 〜その1:特異な生態〜 はじめに. 薬研がヤーコンを初めて栽培したのは1998年頃だったと記憶します。しかし本当に興味を持ち観察研究を始めたのは2002年のことで、 この間にタネ芋の越冬方法、それに茎葉や塊茎と塊根の成長観察から生態を掴み、漸くある結果を導き得ました。 本レポートではこの方法論の詳細は割愛致しますが、研究の過程で知り得たことをお知らせします。 なお、本文は特願整理番号9802・受付番号50501504127受理済みの拙研究から、概要および必要による要諦を書き出したものです。 ヤーコン・その素性と生態. ヤーコンはキク科キク亜科メナモミ連メランポジナエ亜連のスタイロサンサス属あるいはポリムニア属に分類されていたが、 近年、スマランスス属に再分類された多年生植物であり、学名は Smallanthus sonchifolius( Poepp. & Endl.)H.Robinson(図1)。
その起源は現在の南米大陸のペルーからボリビアなどの中央アンデスからアマゾン地帯の一部を含むアンデス山脈、それも東側高地を主産地とする。
文化人類学に明るい方はお気付きになるかと思うが、この一帯は紀元前1000年にも遡るオルメカ文明やチャビン文化を継承し、
ナスカ文化を経てインカ帝国が栄えた場所であると言われている。
古代文明を辿ればこの地はトウモロコシ・カボチャ・ジャガイモなどを栽培し定住農耕文化が展開された場所で、
言い替えれば「耕作=Cultivation=カルチャー」の発祥地であり、想い馳せるに原種の野菜類や他の穀物と共に、
健康を支える畑の果実としてヤーコンも食されていたものであろう。もとより多年生植物の定義は“冬期などに地上部が枯死するが、地下部が個体として複数年にわたり越冬生存する性質を持つもの”であるが、 原植生の源を離れほんらいは適していない地域の栽培では地下部を霜や氷結から守らねばならない。 この観点からすれば、我が国の寒冷地域では一年生の生態を持つものという解釈をしても実態的にはあながち間違いでは無いであろう。 日本への伝来と品種改良. オルメカ文明やチャビン文化が栄えた時空を超え、およそ3000年後の現代の話に戻る。 我が国における基礎研究では茨木大学農学部の浅見・月橋教授チーム、品種改良と応用では中国近畿四国農業試験場が第一線にあるものと認識する。 月橋輝男氏の著書によると日本に渡ったのは近年、ニュージーランド経由のものが公の記録とされるようで、 現在は世界のごく一部で栽培されてからくも種の絶滅を免れている様子である。 昨年拙試験畑において植え付けた220個の塊茎は5個が欠落したのみで順調に育ち、晩秋にはおよそ1トンの塊根を得ることができ、 栽培は決して難しいものではない。宮城蔵王の麓で長年栽培しているが、連作障害といえるような現象は見受けられない。 付け加えれば、化成肥料は全く施さず完熟有機肥料と緑肥を僅かにすき込んだだけで、除草のための農薬は一切用いていない。 ところで先に起源に触れたが、このことから栽培適地を見い出すことができる。つまり原産地は適度な降雨に加え、 赤道直下ながら高原ゆえに夏の灼熱の暑さは免れ、かつ、収穫期には霜が降りるなど昼夜の温度差がほどよくある地帯。 アンデス山脈の成り立ちは浅学にして不明ながら、地殻移動による隆起がまず考えられ、火山の形態としては日本列島と同じ島弧海溝系と分類されている。 古来より火山活動は少なからずあり、玄武岩質安山岩の溶岩と噴出物からなる成層火山のうえ高低差が大きいため、 降雨などの影響によって表土が流され易く、存外に肥沃な土壌であるとは思えない。 またヤーコンの発芽塊茎は過湿には極めて弱く、冠水すると2〜3日ほどのごく僅かな間に根腐れを起こす。 では水気が少なければ良いのかというとそうでは無く、大きく成長する葉茎を支えるために多くの水分を必要とする。 したがって多くの塊根を収穫する要諦は、適度な保水力を持ちつつ排水性を良くすることに尽き、畝の高さと方向が密接に関連する。 少し詳しく触れると、ヤーコンはアンデス高地を離れて栽培された例は少ないが、近年ブラジルで飼料を目的とした大規模な栽培が始まっている。 日本への導入は、1984年に種苗会社がペルー原産系統(ペルーA群系統と呼称)をニュージーランドから導入したのが始まりと思われる。 その後、四国農試〔現・近畿中国四国農試〕が、1991年にボリビアから2系統を、1992年にはペルーの国際バレイショセンターから3系統を導入し、 1995年には農林水産省の遺伝資源海外探索事業により、エクアドルから10系統を導入した。 現在、営利栽培に用いられている品種は1984年にニュージーランドから導入されたペルーA群系統が99%以上を占める。 近年ようやく交配育種により育成された3ないし4品種が一部で栽培され始め、栽培や研究の範囲は北海道から九州と、ほぼ全国的になされている。 アンデス山脈一帯では、伝統的に先住民によってよく知られたナス科ジャガイモのほか、 カタバミ科など様々な科にまたがった芋状の根菜類が栽培化されてきたが、ヤーコンもそういった根菜類のひとつであり、 成長すると草丈は2メートル近くになりヒマワリに似た黄色い花を咲かせるが、花はごく小さいものである。
根は塊根型の貯蔵根となりサツマイモのように肥大する(図2)が栄養生殖器官としては機能しておらず、これだけ植えても芽(不定芽)は出ない。 同じキク科のダリアと同様、塊根を生じる地下茎の芽(鱗片葉の腋芽)とセットになって、これに発芽時の栄養分を供給する働きを持つ。 但し、ダリアと異なり地下茎の芽は塊茎状に発達し、塊茎(図3)単独で発芽して成長する。 塊根の貯蔵栄養素として特筆すべきことは、他のイモ類に共通するデンプン由来の有効成分含有とは異なり、フラクトオリゴ糖を大量に蓄積しており、 生で食べるとかすかにポリフェノールに起因する渋みを感じるものの、甘くしゃきしゃきした果実の梨に近い食感を持つ。 主として生食で食用にされるが、炒める、煮るなどの加熱調理もされる。甘み成分はフラクトオリゴ糖の一部の分解で生じた低分子の糖に起因するため、 収穫後1ヶ月ないし2ヶ月の保存によって甘みが生じる。また、葉を煎じて一種のハーブティーとしても利用されるようである。
食用としての伝統は日本では浅いため、食材そのものよりも機能性食品として、 豊富に含まれるフラクトオリゴ糖の整腸作用や血糖値抑制効果などの効果が注目されている。 資料から引用すると、「図41)および図5のように地上部にある葉は対生で茎は中空であり、秋には黄色の頭花を着生し、 地下部に塊根と塊茎の2種類の貯蔵器官があり、食用に塊根を、繁殖に塊茎を利用する2)」。 つまり塊根を植え付けても発芽はせず、塊茎を植えなくてはいけない。
栄養素. 近畿中国四国農試・研究センターの資料によると、平成16年の報告書に次々と品種改良が加えられ発表されている。 ではなにゆえにこのように精力的な研究がなされているのか。これにはヤーコンが持つ特異性が大きく注目されている背景がある。 私が中学校当時に習った頃は3大栄養素が食の基準だったと記憶するが、やがて5大栄養素となり、 こんにちでは6大栄養素あるいは7大栄養素まで細分化されている。 大辞林第二版を例にとると「栄養素とは生命を維持するためのエネルギー源や生体を構成するのに必要とされる材料で、 生体内での各種化学反応に欠かせない物質である。特にヒトは生命維持に必要な物質のうち体内で合成できない、 または体内での合成量では必要な量が摂取できないものを外から摂取しなければならないが、このような物質が必須栄養素であり、 たんぱく質・炭水化物・脂質が3大栄養素、3大栄養素にビタミン、ミネラルを加えたものが5大栄養素、 5大栄養素に食物繊維を加えたものが6大栄養素、6大栄養素に植物栄養素を加えたものが7大栄養素とされる」(表1)。
ヒトの腸管活性. 従前、食物繊維は身体の構成成分にもエネルギー源にもならない食物のカスとして扱われてきたが、 最近あらゆる生活習慣病と関係が深いことが明らかにされ、栄養学的にもその機能が評価されて、健康に必要な成分として注目を集めている。 食物繊維は人の消化酵素では消化されにくい成分で、水に溶ける水溶性食物繊維と水には溶けない不溶性食物繊維があり、 水溶性の食物繊維は大腸の粘膜の保護をする。また不溶性食物繊維は 便の量を増し、便の硬さを適度にしながら移動し、 腸内のビフィズス菌などの良い菌を増やす働きがある。水溶性食物繊維と不溶性食物繊維のどちらも便秘の予防と同時に大腸癌予防に有効とされ、 高タンパク・高脂肪に傾きがちな現在の食生活においては不可欠な栄養素である。
食物繊維に関し述べると、植物の繊維や細胞壁などを構成し、ヒトでは消化できないか消化の困難な多糖類物質で、 セルロース・リグニン・ヘミセルロース・ペクチンなどが挙げられる。 これらは動脈硬化・糖尿病・肥満・直腸癌などの防止に効果があるといわれる食餌性(しよくじせい)繊維で、 別名ダイエタリーファイバー(=DF)と呼ばれ、こんにちヒトの腸管活性(図6)には不可欠なものと認識されているものである3)。 もとより植物は自分自身で移動することも積極的に外敵に抵抗することもできない。 そのため、昼と夜の温度差、湿度差、強い日照り、害虫の毒、動物の攻撃などに日々さらされる厳しい環境から自身を守るため、 生体防御システムを身につけていることが判っている。これにより生成された化合物がファイトケミカルと称されるもので、 語源は(Phytonutrient)=Phyto (植物:ギリシャ語)+ nutrient(栄養素:英語)にあり「植物由来の栄養素」をあらわす言葉である。 これら、植物の色素や香りを伴う成分等がファイトケミカルの正体とされ、この物質は人体に多様な働きをするので、 ビタミンやミネラルと同様に「微量でも人体の健康維持において有効に作用する栄養素」という理由により、化学的にはファイトケミカルとされ、 他方、栄養学的な分野ではファイトニュートリエント(植物由来栄養素)と呼ばれている。 そしてたんぱく質・炭水化物・脂質・ビタミン・ミネラル・食物繊維に継ぐ、ヒトの健康にとって重要な役割を果たす「第七の栄養素」として脚光を浴び、 多くの研究者によって解明が進められている訳である。これらの植物栄養素については未だに分析や同定できないものが数多くあるが、 植物配合物質が特有の利点を持っていることは漢方薬を代表として知られる所以で、人体に様々な効用をもたらしてくれるはたらきは言うまでも無い。 ヤーコンの既知成分. 既に栽培しておられる方も多く知識も豊富であろうことから、ここでは体験や経験と資料を交え触れてみたい。 図7はペルーA群系統のヤーコンの成分比率を示したもので、この値は固体差および産地と生育状況によって異なるが、概ね同じような分布比率にある。 まず圧倒的に水分が多く、次いで糖質と食物繊維となっており、微量成分としてミネラルやビタミンが含まれていることが分析された。
先に「甘み成分はフラクトオリゴ糖の一部の分解で生じた低分子の糖に起因するため、
収穫後1ヶ月ないし2ヶ月の保存によって甘みが生じる」と述べたが、図8の糖質成分の変化に注目されたい。
図中、1-ケストース・ニストース・1F-β-フラクトフラノシルニストースの総体がフラクトオリゴ糖で、
フルクトース(厳密にはグルコース・スクロースも含まれる)の経日成分変化カーブと逆比例して減少している。
すなわち図8は、掘りたての塊根部に含むフラクトオリゴ糖に対し、掘り上げてから日数を経ることで加水分解を起こし、
主としてフルクトースなどの単糖類(果糖類)に変化してしまう現象をあらわしたものである。食べると甘く美味しく感じる時分は、
実はフラクトオリゴ糖が分解された結果であり、誠に勿体無いことと言える。これを防ぐ方法や工夫については順次報告する。先に食物繊維について述べたが、同様の作用を含みながらフラクトオリゴ糖にはもうひとつ桁違いに重要な物質の働きが期待されている。 1回目では「プレバイオティクスの領域」だけ表現にとどめ、わけは次回に詳述する。一株だけでも試食には足りるので、 栽培体験が無い諸氏には是非とも育ててみていただきたい。参考に肥料についての記述を引用すると「窒素0.8〜2Kg・リン酸とカリは同量以上とし、 圃場条件により増減する。追肥の効果は確定していない。備考/過剰肥料によるツルボケ現象は見られない。現在は初期育成を順調にさせるため、 基肥主体で行っている4)」との報告がある。 まとめ.
アンデス高地を中心とした山岳地帯は畑作物・野菜・果樹類の主要発祥中心地の一つと考えられ、地下作物が多いのが特徴で、
アチラ(食用カンナ)、アヒバ(ヤムビーンの近縁種)、アラカチャ、オカ、オユコ、マウカ、マカ、マシュアなどと共にヤーコンがあるが、
バレイショなどを除きアンデス地帯以外で栽培されることは少なく、その利用に馴染みの無い作物であった2)とされる。
先に挙げたトウモロコシやカボチャをはじめ、おそらくアンデス高地は現在世界中で栽培される食用作物の原種の宝庫であったものであろう。20世紀初頭の1911年、米国の歴史家ハイラム・ビンガム(1875-1956)によって発見された空中都市マチュピチュ(参考図9)。 発掘された人骨の調査から、戦いなどは無く人々は健康そのものであり、この地にある段々畑ではトウモロコシを育てていたというアンデスの遺跡。 仮にここにヤーコンも植生していたと想えばそれは古代文明の貴重な食遺産にほかならない。 あくまでも架空の想像であるが、いにしえの人々が育み食してきた深淵なる植物「ヤーコン」を有効に活用していきたいものと願う。 2006.01.07.
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