植物が秘める能力


[このウィンドウを閉じる]
〔研究レポート〕 脚光を浴びる機能性野菜
JAPAN ASSOCIATION FOR HERBS, 96, 17-26, 2006. より再編。
 ヤーコンについて 〜その2:機能性〜

プロバイオティクス
 成人の腸管の表面積はおよそ二百平方メートルと、 テニスコートに置き換えると1.5面分ほどにもなる面積の中に百兆個以上の細菌を含めた微生物が存在しており、ひとつの臓器といわれるほど大切なもの。 体内の免疫機能を活性化する役割をはじめ多くの機能を司っていると考えられ、 小腸から大腸におよぶ広大な腸内に同じ種類の細菌が集団をつくって多種多様に群生しているさまを花畑にたとえて腸内フローラ(腸内細菌叢)といい、 表1のような細菌群が住み着いてヒトの健康に関わっている。

表1

 現在、21世紀の予防医学の観点から活発に研究が進められているものにプロバイオティクスがある。 生物同士の共生を意味するプロバイオシスを語源とするもので、“ヒトの健康維持機能を持つ生きた微生物”と捉えられ、 正しくは腸内フローラのバランスを改善することによって有益な効果をもたらす生菌添加物、 あるいは宿主の健康維持に有益な働きをする生きた微生物と定義(Fuller, 1989)される。 健常なフローラは体に悪影響を及ぼす病原微生物の侵入と増殖を抑えるはたらきがあり、健康を維持する上で大きな役割を担うもので、 概ね次の条件を満たすものを対象としている。

  *摂取の際に安全な食物であること。
  *腸内フローラの菌種類であること。
  *胃酸や胆汁等に耐性を有すること。
  *腸管内で棲息できる菌であること。
  *病原菌や発癌物質を排除すること。
  *菌数を維持し活性が保たれること。

 プロバイオティクスの主たるものは、ルイ・パスツールよって発見された細菌のひとつである乳酸菌(lactic acid bacteria)である。 ただし乳酸菌とは生物学的な分類上の特定の菌種を指すものではなく、乳酸を多量につくる細菌群を指す便宜的な分類名の総称で、 すべての乳酸菌がプロバイオティクスに該当するものではなく、 口腔摂取されたのち胃液や胆汁などの影響に侵されずに生きて腸に届くものでなければならない。 生きた菌であり保健効果が確認された安全なものであることは当然、必須条件として腸管内に棲息でき、 腸管粘膜および腸管粘液性グリコタンパク質に付着性があることが大切な要素とされる。すなわち、消化器系はヒトの腸管免疫の主体を成し、 生体防御に大きく関与し健康維持に不可欠な役割を果たしているものであり、強い生命力で腸内細菌叢に活性をもたらす機能を有することが、 腸管エコロジーにとって重要視される所以である。
搾乳加工
 乳酸菌は古来より人類が発酵食品を通じて体内に入れてきた細菌群であり、経験的な見地から安全性が高いとみなされている。 図1はシュメール人が刻んだ石刻に遺された乳製品の製造の様子であるが、このように、世界の各地でその地域特有の発酵食品が生まれ、 プロバイオティクス食品のさきがけとしてそれぞれの発酵食品の特徴を醸し出す多大な貢献をしてきた歴史がある。 なお腸内フローラについて「腸内細菌叢」としているが、食品科学などの資料によっては「腸内常在細菌叢」と表記される場合があるので若干補足する。

 1885年頃、大腸菌をはじめ健常者にも存在する常在菌として幾つかの腸内細菌科の細菌が分離同定されたものの、 当時は偏性嫌気性菌の存在があまり知られておらず、培養不能な偏性嫌気性菌は死滅菌の残骸であると考えられており、 これらを腸内常在細菌叢としていた。1950年、腸内細菌の役割について宿主との共生という観点からの研究が再び盛んになり、 嫌気培養技術が大きく発展し細菌叢調査法による実態解明が進み、腸内に常在する微生物叢が宿主の健康に関与していることが次第に明らかになった。 したがって本稿では厳密に分けず同義とする。

 ちなみに1899年、パスツール研究所の研究員であったティリエは、母乳栄養児の糞便から偏性嫌気性菌であるビフィズス菌を分離している。 この当時、母乳と人工乳に関して新生児の発育や死亡率などに違いがあり、母乳栄養児の方が健康状態が良いと知られていたもので、 ティリエはこの違いを明らかにするために糞便中に分離される腸内細菌に着目し、 当時はまだ技術的に未熟ながらも嫌気培養法によってビフィズス菌の分離に成功し、母乳栄養児にこの菌が多く見られることを明らかにした。 この発見により腸内細菌が宿主の健康に大きく関与していることが注目され、 20世紀初頭にかけて多くの偏性嫌気性菌の分離が行われるようになった経緯がある。

プレバイオティクス
フラクトオリゴ糖の構造  プロバイオティクスが乳酸菌やビフィズス菌など、いわゆる善玉と呼ばれる細菌を生きたまま含むものであるのに対し、 それ自体は生菌を含まないが、善玉菌が特異的に選択して利用する栄養源(炭素源)とするものをプレバイオティクスと言い、 図2のフラクトオリゴ糖(以下、FOSと略記)が筆頭としてあげられる1)。 とりわけ脚光を浴びているプレバイオティクスの代表格であるFOSは、1-ケストース、ニストース、1F-β-フラクトフラノシルニストースから成るもので、 それぞれをGF2,GF3,GF4とし、 従来は主として砂糖などを原料とした酵素法により合成していた短鎖化学生産物である。 その他、間接的に宿主に対して保健機構に寄与するものにグルコオリゴサッカライド・ガラクトオリゴサッカライド・キシロオリゴサッカライド・ イソマルトオリゴサッカライド・ソイビーンオリゴサッカライド・トランスガラクト-オリゴサッカライドなどが広く利用されるが、 プレバイオティクス能を持つものとして記載したまでで詳細は省略する。
キク科の糖含有
 さて前回に、キク科植物のヤーコンにFOSが多く含まれることを述べた。一般にキク科植物には図3のようにFOSを含むものが多く、 特にヤーコンの含有量は顕著な値を示している2)。昨今、ヤーコンは日本各地で栽培されるようになり、 安定的にFOSを活用できれば安全で安価なものとして飛躍的に高いニーズが求められよう。 プレバイオティクスの機能に優れるヤーコンは難消化性のFOSを大量に含み、胃では分解されず腸に達して腸内細菌叢に活性をもたらし、 さらにFOSが「う蝕」の原因菌であるミュータンス菌の不溶性グルカンの基質にならないことから抗う蝕性作用を持ち、 活性酸素の抑制による糖尿病などの生活習慣病や免疫低下と老化などの病的状態の原因菌であるウェルシュ菌や 大腸菌には利用されない高い選択性を持った炭素源であることが報告されている3)4)。 但し「安定的にFOSを活用できれば」が前提で、これを問題1とする。

 ヤーコンには多量の食物繊維や、カテキンより強い抗酸化作用があるポリフェノールも多く含まれる報告がある5)。 これが活性酸素を抑制する物質と推定されるものの、ポリフェノールのなかには殺菌作用を現すものが存在し、食品としては大きな利点ながら、 FOSが乳酸菌やビフィズス菌を活性させる反面、有用菌の増殖を妨げるおそれもあり、これを問題2とし、以下ヤーコンの糖組成にふれていきたい。

 三井農林食品総合研究所の実験報告によると「ヤーコンのフルクタンの構造解析の結果、これらがキクイモなどと同様のイヌリンタイプ、 すなわちフルクトシル基がβ-(2→1)結合で連なった直鎖のフルクタンであることは既に解明されており、比較的低重合度のものをFOSとするが、 それ以上の重合度を持つフルクタンの存在が指摘されていた。HPLCによる分析ではGF15程度まで検出される場合があって、 ヤーコン塊根部の顕著な特徴の一つは低重合度から高重合度を持つフルクタンであり、このものが各種細菌に対する資化性の実験結果[表2]を導いた。

表2

 ヤーコンフルクタンは腸内の悪玉菌には資化されなかったが多くのビフィズス菌には資化され、腸内菌叢の改善に役立ち、 虫歯菌である Streptococcus mutans には資化されたが、ヤーコンフルクタンから比較的高重合度のGF5〜GF8をさらに精製し 同様の試験を行ったところ、これらは Streptococcus mutans に資化されるものの、プラーク(歯垢=歯牙細菌苔)の形成は観察されなかった。 次にラットを用いてヤーコンフルクタンの血糖値に対する影響を調べた結果、 ヤーコンフルクタン投与群ではグルコース投与群と比較して明らかに血糖値の上昇が抑制されており、 低カロリー甘味料になり得ることが示唆された6)」と結論づけている。

(フラクタンとは高分子多糖体。資化性とは生育できる栄養素。細菌種1〜10は有害菌、11〜16は有益菌とされるもので、 菌名のあとにつく英数大文字のコードナンバーは特定の株種を示す。またビフィドバクテリウムについて、 Bifidobacterium 属は本来乳酸菌の定義からはずれるとされるが、ヒト腸管内に棲息し、保健効果に極めて優れていることから、 乳酸菌と関連付けて述べられることが多い理由で附加したものと思われる)
  1. 〔スタヒロコッカスアウレウス〕黄色ブドウ球菌・ブドウ球菌中もっとも病原性が強く抗生物質に耐性のブドウ球菌増加による院内感染の原因菌のひとつ・ 化膿性疾患・肺炎・敗血症・食中毒・剥離性皮膚炎などをまねく。
  2. 〔サルモネラエンテリティデス〕ゲルトネル菌・腸炎菌と呼ばれる急性胃腸炎型食中毒や敗血症などを誘発する原因菌。
  3. 〔サルモネラチフィムリウム〕ネズミチフス菌・ヒトに急性胃腸炎型食中毒をもたらし時に敗血症を誘発する。
  4. 〔エンテロコッカスフェカーリス〕腸球菌・Streptococcus faecalis ともいう。α-あるいはγ-溶血性の連鎖球菌で、 ヒトの口腔に生息する「う触」病原菌。
  5. 〔エンテロバクターエロゲネス〕大腸菌群(Coliforms)・ヒトの腸管常在菌で通常は無害。 院内感染原因菌として呼吸器感染・手術部位感染・尿路感染・血流感染を起因し、肺炎・腹腔内感染・心内膜炎・髄膜炎などをもたらす場合がある。
  6. 〔エシュリキアコリ〕大腸菌・ヒトの腸管内に広く常在する菌叢。 急性胃腸炎・腸管病原性大腸菌(感染性下痢症)・毒素原性大腸菌・尿路系感染症・敗血症・菌血症を起こすものもある。
  7. 〔エシュリキアコリ〕大腸菌。腸内細菌科 EnterobacteriaceaeEscherichia の一菌種。
  8. 〔ストレプトコッカスミュータンス〕齲歯原因菌。グラム陽性球菌でソルビットやマンニットを分解しスクロースから非水溶性粘着性のα-グルカンを生成し、 培養菌体は歯や各種の硬固形表面に強く付着して健全性を損う。
  9. 〔ストレプトコッカスミュータンス〕虫歯菌。多くの糖類を分解し乳酸などを産生し歯の硬組織を溶解。 また細胞壁多糖抗原の免疫学的特異性によりaからhの8種に分類され、ヒトではc型がおよそ8割を占めるとされる。
  10. 〔ストレプトコッカスミュータンス〕虫歯菌。なお8にあげたソルビットとはソルビトール(sorbitol)で、 グルコースの還元により生成する糖アルコールの一種。マンニットは概ねソルビトールと同種の糖アルコールで、 ソルビトール同様に歯の「う触」作用の促進・口腔の健全に障害となる菌。
  11. 〔ビフィドバクテリウムロンガム〕桿菌・ビフィズス菌。腸内菌叢由来のビフィズス菌で、成人や老人の主要菌叢として腸内に定着する。
  12. 〔ビフィドバクテリウムブリーヴ〕桿菌・ビフィズス菌。乳児の腸内菌叢由来菌。
  13. 〔ビフィドバクテリウムインファンテイス〕桿菌・ビフィズス菌。現在は検出される率が低いが12と同様な乳児の腸内菌叢由来菌。
  14. 〔ビフィドバクテリウムビフィダム〕ビフィズス菌・多形性グラム陽性桿菌。各種の糖から乳酸や酢酸などを産生し、耐酸性でカタクラーゼ陰性。 母乳で養育され乳児の糞便中で大きな比率を占める。
  15. 〔ビフイドバクテリウムアドレセンティス〕桿菌・ビフィズス菌。成長期の腸内菌叢由来菌。
  16. 〔ラクトバシラスブリビィス〕乳酸桿菌・グラム陽性の非芽胞形成桿菌。 様々な大きさや形態と配列を呈し非病原性でカタクラーゼ陰性を持ち微好気性あるいは嫌気状態で活性化する植物や動物由来の醗酵製品。
 あとさきが逆になるが、まず問題2に関し、平成18年3月5日、茨城大学農学部におけるヤーコンシンポジウムで発表された研究成果7)について、 開示文の語句そのままで紹介する。図4は市販のFOS標準物質のHPLCクロマトグラム、図5はヤーコン特有FOSのHPLCクロマトグラムで、 重合度の低い三成分フルクタンから成る短鎖FOSに比べ、 図5ではヤーコン特有の重合度が比較的高いGF5から高重合度のGF9に至る長鎖FOSの存在を実証しており、 これは大変に興味深く感じる。

図4&5

図6

 図6のポリフェノールHPLCクロマトグラムはヤーコン特有のジカフェオイルアルトラル酸 ならびに2,3,5-or2,4,5-トリカフェオイルアルトラル酸(以下、YPPと略記)が存在することを意味し、実験概要を極めて簡略に言うと次のようになる。 「ポリフェノール液体培地を基本として0.5%のグルコースと標準FOSならびにヤーコン塊根長鎖FOS[GF5〜GF9]を添加した培地、 およびこれらに0.1%のYPPを添加した培地で Bifido-bacterium adolescentis の増殖培養とペーハー管理下での生菌数の観察」 更に「同様の条件下で菌体を変えて観察」そして「長鎖FOSならびにYPP存在下で増殖した B. adolescentis の代謝産物が Clost ridium difficile の増殖に及ぼす 観察の結果、カテキンやビタミンEよりも抗酸化作用が強いYPPはビフィズス菌の増殖に影響はなく、腸内細菌叢がYPPによって乱されず、 ヤーコン塊根部に含まれる長鎖FOSとYPPを一緒に食しても問題はないと言える」と結んである。

 なお実験菌種は表2と同一の[三井農林株式会社食品総合研究所生理活性研究室]のスライド開示があり、この報告に際し、 同チームは今後ラット試験に切り替えて追試していく旨の発言があった。YPPについて、拙研究においてもまさに焦点を絞り調べているが、 独立行政法人食品総合研究所の公開情報にとても面白い記載があるので要点を拾ってみる。「ヤーコン貯蔵糖としてフラクトオリゴ糖を豊富に含むが、 ポリフェノール化合物の含有率が非常に高い(換算で mg/100 g)ことが注目されており、 主要なポリフェノール化合物はキク科植物に一般的に含まれているクロロゲン酸類の他に、天然では珍しいアルトラル酸(アルトロース由来のジカルボン酸)と オクツロソン酸(八炭糖由来のケトアルドン酸)誘導体を骨格としてこれに1〜3分子のカフェ酸が結合した化合物であることを明らかにした。 ヤーコンはこれらの稀少な化合物を含め、高い活性を有する抗酸化成分の供給源として有用な作物であるといえる(特許第3039864号)」とある。

 通常、植物に含まれるフルクタンはスクロースにフルクトシル基が一つ以上結合したフルクトースのオリゴマーまたはポリマーで、 結合様式によって様々なタイプが存在するが、ヤーコンのフルクタンには単にFOSのみならず高重合度あるいは長鎖FOSがあって、 ヤーコン塊根はそれ自体が機能性食品の資格を有し、得られるフルクタンも限り無い食品応用を強力に補佐する証明と言える。 ところが解決しなければならない障害が存在する。先に述べた問題1の「安定的にFOSを活用できれば」である。

加水分解 加水分解
 本稿において、参考と部分的に引用した一連の資料はとても貴重なものだが、では検体であるヤーコンが「いつ掘り上げられ、 いかに保存処理されたものか」への言及が欠けており、遺憾に思うところである。この背景には軽んじてはいけない事由が潜んでおり、 端的に言うとヤーコンのFOSは時を追って変化し、もっとも適切な時機を逸せば実験自体の有為性が失われるおそれがあり、 このことは実験レベルだけでなく摂取する際のポイントにもなりうる。前回掲載したものを再び図7に示す。

 直感的に解り易くするために片対数グラフにしたが、横軸の経過日数に添ってフルクトースが右肩上がりに上昇し、 これに反比例してFOSの三成分が下降している。これが加水分解による現象である。

 掘り立てのヤーコンでは、個体差はあっても許容できる幅で各種成分が検出される。 しかし保管の状態によってはFOSがフルクトース・グルコース・スクロースなどの単糖や果糖への分解が進む。 よって、肝心のFOSを安定せしめる技術論を確立したのちに商品化に臨むのが順当であろう。

 オチをつけるものではないが、2006年ヤーコンシンポジウムで発表された研究成果の一つにT県S町におけるヤーコン・ラガーの商品化の演題があり、 よくぞ解決したものと感心したが、話を伺っているうち「レレレのおじさん化」してしまった。FOSの安定化についてひとことだけ質問させてもらったが、 回答は「あまり甘くない発泡酒のつもりが半年も経つとアルコール入り甘味炭酸水になる」由。剣呑になるかと冷や汗ものであったが、 緊張みなぎる会場が湧いて和やかになり、研究者・商品開発者諸氏のおおらかさに感謝した次第。

 閑話休題、拙研究の原点の一部を図8と図9に示す。作図型式を統一しないままで恐縮だが、 要は図7のFOSの変化を何らかの方法で抑制すればフルクトース(厳密にはグルコース・スクロースも含まれる)への分解も反比例するだろう と仮定して始めたもので、図7と図8を比較すればカーブの推移が異なり、抑制していることが判る。 さらに経過日数によってはニストースおよび1-ケストースが増加する傾向が確認された。

ヤーコンの糖質成分変化 ヤーコン糖質HPLC

 現時点においてヤーコンに関する特許請願が受理された開示情報は23件あり、うち11件がFOSの安定保持を目的とし、その独自性が認められたものである。 例えば先に記した発泡酒に近いものを技術的に解決している例のひとつが「グルコン酸含有ヤーコン醗酵飲料およびその製造方法」で、 方法論としてグルコン酸生成能を有する微生物または酵素を添加云々とあり、安全は勿論、安定性を考慮する必要を満たしている。

 ところがそれでも済んだとは言えない。FOSやYPPの機能を生かしつつ工夫していかなくてはならないのだが、 解決しなくてはならない厄介なものにクロロゲン酸がある。この成分自体はむしろ有用であるが、 ポリフェノールオキシダーゼと相まって褐色変化の促進物質としてはたらき、僅かな苦味と共に、食品としての見た目に大きく関わってくる。

シンバイオティクス
 つい先頃まで炭水化物は糖質栄養素とひと括りの扱いであったが、糖鎖栄養素の存在がわかった今は炭水化物と糖鎖栄養素に分け、 ポリフェノールやβカロチンなどのファイトケミカルを加えた7大栄養素とする考え方が主流となりつつあるのは前に述べた。 狭義では7大目のものを非栄養素の機能性成分としており、これらは腸内で栄養素を生成するのに役立つ機能性を有する。 述べてきたように、ヤーコンが持つ特殊な固有ファイトケミカルには大きな可能性が期待される。 これに関し、腸内フローラにおけるプレバイオティクスのメカニズムについて、新たに見い出された機能性の要旨を簡潔に追加する。

 「フラクトオリゴ糖(FOS)がカルシウム、マグネシウム、鉄などのミネラル吸収を促進する効果を持つことが動物実験において数多く報告されており、 近年ヒトの臨床においても同様の効果が確認された。小腸はカルシウム吸収の中心的な場であると考えられてきたが、 大腸、特に盲腸が重要な役割を持つことが報告された1)

 「難消化性糖類がラットのカルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)吸収に及ぼす影響に関する研究においては、 ラクチトール(LA)およびフラクトオリゴ糖(FOS)がCa、Mg吸収を高め、大腿骨のCa含有率増加、骨化促進に影響することを示すとともに、 大腸内発酵産物である短鎖脂肪酸がこれらに関与していると考えられる結果を得た8)

 「プロバイオティクスの機能が明らかにされている乳酸菌は、現在、臨床的に広く利用されており、細菌性膣炎の治療に関し、 乳酸菌のうち特にラクトバシラス属とビフィドバクテリウム属はヒトの消化管内や女性の膣内に常在し、常在細菌叢の一部としての役割を担っている。 デーデルライン桿菌は主としてラクトバシラス属から構成される、健康な成人女性の膣内に生息する多数のグラム陽性桿菌で、 膣の自浄作用を担い生体バリヤーとしての役割を果たしていると考えられている9)

 「白血球が体内でもっとも多い腸管は免疫力強化の急所で、腸が若いと白血球が活性しガンも防げる。ガン予防で最近特に大きな注目を浴びている臓器が腸で、 粘膜のひだには多くの免疫細胞がはたらいており、有害・有益を区別し有害物を排除している。特に小腸の免疫細胞が司令塔に似た仕組みを持つもので、 この活性化にヨーグルトなどの乳酸菌の摂取が欠かせず、オリゴ糖と一緒に摂取することで腸の老化も防止できる10)

イメージ図  以上、多くの報告ならびに文献や雑誌からごく一部を抜き出してみた。最後に、シンバイオティクスのイメージを図10に描いてみたので参考にされたい。 図のように、シンバイオティクスとはプロバイオティクスとプレバイオティクスを一体化させながら、 プロバイオティクスの機能を充分に発揮させようとするもので、ヒトの健康に対する機能性を高める上でシンバイオティクスが益々重要になってくるものと思う。 プロバイオティクス一辺倒でも宜しくなく、善玉菌とその餌であるFOSを併せて摂取することが求められている。さらに驚くべきことは、縷々述べてきたように、 単に有益菌の餌であると考えられてきたプレバイオティクス自体にもヒトの免疫機能に深く関わり健康の維持と向上をになう能力があることが明らかにされたいま、 機能性野菜ヤーコンを有効に摂取したい。次回はこの方法と調理例を記す予定。
2006.05.17.

■参考文献
 1)佐久間慶子,「フラクトオリゴ糖によるカルシウム吸収促進作用の分子生物学的メカニズム」
  腸内細菌学雑誌 Journal of Intestinal Microbiology 16,11-19,2002.
 2)平成6年度四国農業試験場研究センター研究成果情報,野菜花き果樹部会 13,146-147,1995.
 3)辻啓介,森文平編,「食物繊維の化学」朝倉書店 1997年9月初版.
 4)浜田茂行,細菌学雑誌 36,557,1981.
 5)Takenaka M. et al., J. Agric. Food Chem., 51,793-796, 2003.
 6)深井克彦,三井農林株式会社食品総合研究所生理活性研究室,「III ヤーコンの健康機能成分の利用」
  平成10年度四国農業試験場公開セミナー要旨より.
 7)全薬工業株式会社研究本部中央研究所,
  「ビフィズス菌の フラクトオリゴ糖資化に及ぼすヤーコンポリフェノールの影響について」
  ヤーコン研究会平成18年度第9回春季大会講演会要旨集 15-16,2006.
 8)独立行政法人国立健康・栄養研究所 応用食品部-2,研究業務抜粋(6)より.
  国立健康・栄養研究所ホームページ引用明示義務による. http://www.nih.go.jp/eiken/
 9)http://ja.wikipedia.org/wiki/ フリー百科辞典 Wikipedia 「デーデルライン桿菌」3-3 .
 10)寺田厚,北廣美,他,「夢21」わかさ出版 5 ,2006.

薬研

※このサイトの全ての文章および写真の無断転載を禁じます。
[このウィンドウを閉じる]
Medical Plant Laboratory 薬 研